【往還集136】8 中村憲吉

2016年6月5日
中村憲吉は1889(明治22)年広島県布野村に生まれたアララギ歌人。46歳で亡くなり、遺歌集としてまとめられたのが『軽雷集以後』です。
病を得てから、比較的温暖な五日市町に移って療養したり、また田舎へ帰ってきたりしていたのですが、その間に作られたのが「秋の山田」一連。
ここにどきっとさせられる一首があるのです。

「真(ま)むかひの山家(やまが)のなかは西日射しあからさまなる仏壇のみゆ」

この章は

「小山田(をやまだ)を刈るひと見れば時じくの栗をぞひろふ稲のなかより」

「田へ引かむながれを樋(ひ)より池におとし黄葉も散りて飯釜(いひがま)しづむ」

などの自然詠が主流で、これまた同じ系列に入りますが、山家のなかに西日が射しこみ、仏壇があからさまに見えたという情景には、どきっとさせられるほどの畏怖があります。 
このとき憲吉が目にしたのは物としての仏壇ではなく、家に鎮座しつづける、霊だったにちがいありません。