【往還集135】50 2冊の歌集・続

2016年5月9日
『キリンの子』から引用する。

「夜だけはみんな死んでた夜だけはひとり起きてた(夜だけが味方)」

「長靴をどろんこにして帰る道いくつもの空の波紋をまたぐ」

「土煙(けむ)り不在の父に会いにいく夏影冷えて黒い遮断機」

「みずいろの色鉛筆で○つけるこんなに長く今日も生きたよ」

「紙飛行機手から風へと放つときひこうきは空の窓通過する」

『風の蟬』から引用する。

「争ひに負けし鴉が飛び立ちて中洲に重き風圧残れり」

「駅裏は喧噪極むる蟬しぐれ鳴かざる蟬が大樹を抱く」

「雑踏に鈴の音ありて托鉢の少年僧の笠の白雪」

「燃えのこる燠火のごとく吾が裡に短歌に魅せらるるこころ尽きせじ」

私も時々、短歌の批評会に出ることがある。そういうとき、難しい論議とはべつに、「堅苦しいことはわからないが、ただ短歌を生きがいとしている」と発言する〈大衆〉歌人を目撃することがある。
これこそが原点だと、私は初心にかえる。