2016年5月5日
あまんきみこさんには、タクシー運転手松井さんを主人公にしたシリーズがあります。ほんわりと、心のあたたまる話の数々。
そこであまんさん自身も、ほんわかした作家と思われがちですが(いや少しはほんわかしていますが)それだけではない。
「すずかけ通り三丁目」に来ると、私はいつも切なくなります。
その日のお客さんは「四十ぐらいの、色のたいへん白い、ふっくらした女の人」。指定された所に着き、松井さんは車で待っている。すると家のほうから楽しそうな笑い声が。
帰りに女の人は、松井さんに話すのです、大空襲で3歳の双子を死なせてしまったことを、それが22年まえの今日だと。
「むすこたちは何年たっても三歳なんです。母親のわたしだけが、年をとっていきます。」
料金を払おうとして出したのは「茶色ですじばったおばあさんの手」。
あまんさんには、生と死の世界を行き来する作品がけっこうあります。