2016年2月14日
人は、まったくの理不尽な状態におとしいれられたとき、どのように生きぬいていけるのだろうか。
最初は誰でもが相手に対して怒りを爆発させ、全身をもって抗議し、抵抗する。
しかし、それがどんな効果も生まず、かえって自分を摩耗するだけだと知ったとき、どうしたらいいか。
北朝鮮に拉致されて24年間拘束された蓮池薫さんの『拉致と決断』は、その問いに対するなまなましいレポートだ。
最初は抗議し抵抗する。
だがしだいに感情を抑え、知性を働かせていく。
招待所の生活について、「まず、考える自由はあった。心に思い浮かべることについては、さすがに誰も干渉したり制裁を加えたりはできなかった。」と語る。
ただし「私が一番悔しかったのは、人生の幸せを追い求める自由を奪われてしまったことだった。」とも語る。
この1冊は不条理への告白書に終らない、哲学書また〈人間書〉でもあると私は思った。