【往還集134】34 放射線物質発光薬

2015年10月4日
田宮朋子は新潟県長岡在住の歌人。風土に根ざした歌に佳作が多い。
新歌集『一滴の海』から。

「降りやまぬ雪を仰げば重力の失せてぐんぐん昇る心地す」
「新雪のおほふ野原に雪靨(ゆきゑくぼ)ありてそこのみほのかに翳る」

雪国に住む人ならではの細やかな描写だ。同時に田宮の住むところは、原発事故が起きた場合影響なしとしない地帯に位置する。だから福島のことも他人事ではない。

「とりがなくあづまみちのく緑濃しどこをどうして除染するのか」
「放射線物質発光薬あらば日本の野山いかに光らむ」

除染の不可能なことは、地元の人間がよくわかっている。
目の前に連なる山をどのようにして除染できる?!
もし発光薬があったなら汚染を特定できる。ただし、みちのくの山々は一斉に光り輝き、このうえない光景になるにきまっている。
いや、海だってホタルイカの大群で埋め尽くされる。山も海も、これまでになく美しいには美しい。