2015年9月2日
「塔」の歌人川本千栄を歌集、評論ともに注目してきた。
うまいから、というのとはちょっとちがう。歌をいくら作っても、どこかに剥落感がのこる。
「重ねても重ねてもこの色ではない詠っても詠ってもこの言葉ではない」
という通りなのだ。
そこが私にとっては逆に興味深い。
『樹雨降る』は最新歌集。そのなかにこういう一首が。
「妻という女をしま匿い男らは一人で生きているがに働く」
川本は教師。男性の同僚と共にいる。
この男たち、結婚し妻を持っているはずなのに、まるで一人のように働いているではないかーー。
私自身、妻も子もいるのに独身者だと長い間思われていた。
この逆に、女性教員には職場に家庭を持ちこむ人がけっこういる。すぐ近くの席の人などイスに坐るやいなや姑の悪口をまくしたる。それが終ると今度は、優秀な息子の自慢話。
来る日も来る日も。
彼女には家庭と職場の段差はまるでなく、地続きだった。