【往還集134】23 憤怒の人

2015年8月30日
短歌大会で、扇畑利枝さんと一緒になることが何度かあった。
そのとき「お父さん」のことが話題になった。
お父さんとは扇畑忠雄氏のこと。
「お父さん、ほかの人には穏やかにみえるけど、家では怒り出すと凄いんだよ」というのだ。
この〈私〉へ帰ったときの憤怒ぶりは、歌にも出ている。

「人に世に憤るは老いの常といへはびこる金権の悪は許さず」
「愚かなる国の政治など信ぜざれ怒り収めて眠らむとする」
「民衆の一人として民衆に恃みたる心のゆらぎ老いて忘れず」

故扇畑忠雄は東北のアララギ系重鎮とされ、政治的に保守的な弟子もけっこういた。
が、戦中体験をけっして忘れることなく、最後の最後まで政治悪を許すことはなかった。 
その憤怒と

「老いてなほ美しきもの吾は見む若かりし日に見えざりしもの」

のローマンのまなざしは同居した。
こういう歌人の在りようが、今はなつかしく、またつくづく貴重だと思われる。