【往還集134】12 『ドイツ戦没学生の手紙』

『きけ わたつみのこえ』のドイツ版ともいうべきこの本、改めて読んでみて、まず1938(昭和13)年が初版であることにおどろいた。
宮柊二も出征先で手にし、祖国の運命に献身から疑惑へ、そして絶望へと傾斜する心理をとらえている。第一次大戦の手記ではあるが、他人事ではなかったのだ。
当時のドイツはフランス軍と敵対する。ところが手記にはフランス兵への侮蔑的な発言がない。
柊二もまた中共軍を「敵」としながらも侮蔑語は一切ない。
また日本兵はよく『万葉集』を所持したが、ドイツ兵もゲーテ、ヘルデルリーンなどのドイツ文学に親しんでいた。
さらに戦場の折々に目にする自然の美しさに心をいやされる。

「世界は以前に変はらずやつぱり美しい、戦争は我々から自然を奪ふことは出来ない。」「自然がある限り、僕はすつかり不幸になり切るといふことはない。」

国籍はちがうだけで人間としては同じだ。

(2015年8月7日)