【往還集132】33 つまずき

傍目にはほんの小さいことなのに、本人にとっては大きなつまずきになることがある。その一例を。
国語の授業ではよく起立のうえ朗読させる。私は新入生の最初の授業を「朗読の苦手な人はこっそり教えて下さい」ということからはじめる。
皆のまえで朗読できない子が、毎年いた。申し出た子を昼休みに呼び、読む練習からはじめる。
数回して自信がついたところで、実際に教室でやってみる。
順番に朗読し、その子の番になると脇に立って、こちらも小声で一緒に読んでいく。
はじめはほんの数行。しだいに行数を増やしていく。
くり返していくうちに、ついにふつうに読めるようになる。
授業が終ると追いかけてきて「先生、できた!」と、満面に笑みを浮かべる。
こういう子が毎年1~2名はいた。いつかどこまでつまずいて、そこから抜け出せなくなっていたのだ。
この個人練習の過程を、他の生徒はだれも知らない。
(2015年3月29日)