【往還集132】28 ネコの玉

リュウノヒゲは、青い小さな実をつける。それを私は子どもの日に「ネコの玉」と教わった。
コネコがころころころがして遊ぶような、愛らしい玉の実。
前沢の霊桃寺(れいとうじ)は山の中腹にある。墓地へ行くには、さらに細い山道をのぼる。境内を出た所に石段があり、そこにネコの玉はいっぱいだった。
私は祖母のお供をして、何度も墓参りした。老いた人にはなかなかの難路、石段まで来ると一休みするのが習いとなった。
そのたびにネコの玉が目に入る。日差しに、きらきら光り、なにか神秘的な感じもした。 
近くにはスズ(湧水の池)がある。そこで持ってきたヤカンに水を入れ、いよいよ墓地へと坂をのぼっていく。祖母にとってはここもまた難路だ。
「みづまさ(みちまさの訛)、手っこ、引けろ」というので、手を引いてやる。
自分は、まだ6、7歳。ヤカンを片手に下げ、もう一方の手は祖母の細い手を握ってやる。
(2015年3月1日)