【往還集132】27 春子夫人

今日は2・26事件の日。当時の内大臣斎藤実も犠牲となった。
その斎藤は水沢出身。この日になると中学の校内放送では、追悼番組を組む。
弁舌のたつ社会の先生は、同じく犠牲になった高橋是清のことも話す。反乱軍が入ったとき裸で寝ていた、青年将校は礼を尽くし衣服を差出して「これ、着よ」といった。これが追悼解説の定番だ。
こちらが高校生になり、長期休暇には水沢図書館に通うようになる。斎藤邸の敷地内にある。
開館と同時に入ると、老婦人がいつも広い木机を拭いている。
小柄で、白髪、和服姿。穏やかな笑顔で自分たちを迎えてくれる。
斎藤夫人だ。
斎藤邸と図書館は廊下で結ばれている。
ある日案内されて行くと、鏡台がある。覆いをとると罅の入った鏡面が現れた。銃弾を受けた痕跡だという。
春子夫人は1971年に98歳で亡くなった。
2・26の日になると、気品ある姿がいつも浮かんでくる。
(2015年2月26日)