【往還集132】24 田丸まひる『硝子のボレット』(書肆侃侃房)

 短歌定型と文語脈は一体のものと長い間考えられてきたが、古文・漢文の教養が縁遠くなるにつれて、そういう公式は成立しなくなってきた。口語脈の増えるのは避けがたいことで、そのため短歌自体の成立が危うくなるという危惧説もあった。
だが『硝子のボレット』を読んでいると、口語自由律とはまた別の、口語定型律の明らかな達成を感じる。

「こいびとのひとりひとりを街路樹に縛りつけたら燃えるのですか」
「スカートの奥の夕陽を裏返すような行為をうまくできない」
「今日はもう聞きすぎている両耳はつばさ どこにも飛んでゆけない」
「まばたきのたびに死ぬほど気持ちいいたましいの呼吸をさせてください」

ここでは一首ずつ詳論するスペースをとれなくて残念だが、口語脈だから軽いということは全くない。
むしろ口語ゆえに、この世の内奥に潜んでいる傷ましいもの、不条理なるものを感知できている。
(2015年2月12日)