【往還集132】12 軟球で

斉藤劦(つとむ)は1935年青森県生れ、弘前市在住の川柳作家。彼の新刊『大地(おおつち)』(東奥日報社)を読みながら、川柳の世界もなんと奥の深いことよと、感銘するところがあった。
まずは作品をあげてみたい。

「ふるさとの山に黙礼してしまう」
「正直に話してごらんかたつむり」
「へらへらとだあれもしない蟻の列」
「まんまるい石まんまるく濡れてゆく」
「輪の外に出て輪の中が見えてくる」
「躓いた石にお辞儀をしてしまう」
「ひまわりがみんな許した顔で咲き」
「ぱっと散るただそれだけがむずかしい」
「滑ったり転んだりして真っ直ぐに」

575の形式は同じでも、俳句はこういううたいかたをしない。蟻の列をよむことはあっても、「へらへらとだあれもしない」とはいわない。落花はよんでも、「それだけがむずかしい」とはいわない。
硬球ではなく軟球で、人事の深奥をつかむ。これは、短歌でもできそうで、できない。              
(2015年1月25日)