【往還集132】8 岡井隆『銀色の馬の鬣』(砂子屋書房)

「岡井さんって怪物よ」と、「未来」の某女子に耳打ちされたことがある。歌人ではあるが歌人とは桁がちがうという。
いかにも彼の筆力と頭の回転は驚くべきもの。
目下「森鷗外の晩年」を書き、総合誌、新聞にもいくつかの連載を持っている。さらにつぎつぎと歌集、詩集刊行である。
短歌出発期に『朝狩』に魅せられた自分は、以後の彼に反発したりしながらも、やっぱり無視できないできた。自己安住をいっときも許さない〈前衛歌人〉でありつづけているのだ。
『銀色の馬の鬣』に

「通雅さんに連れてつて貰ふ青岸となつて消えたるイギリス海岸へ」

がある。賢治学会で「賢治短歌の謎に迫る」の講座を担当していたとき、講師として花巻まで来ていただき、イギリス海岸を案内した。奥さんの恵里子も一緒。初対面の挨拶に「ごくろうさんです、岡井さんをよろしく」と、本人がいないときに口走ったのは、なにゆえだったか。
(2015年1月13日)