【往還集131】36 「ヤン ミジョン」

最後の勤務校に赴任したのは、1996年。その日の午後に行われた入学式を、よく覚えている。
クラス担任が、新入生を高々と呼名していく。
名を読み上げられた新入生は、緊張した面持ちで「はい」と返事し、まだ身につかない制服姿ながら起立する。
何クラスか進んだころ、いきなり「ヤン ミジョン」の声が。
ひとりの女生徒がすーっと立つ。手元の新入生名簿を見ると「梁 美静」とある。
私は教師になって以来、何人かの隣国籍の生徒を担任したが、どの人も日本名に替えていた。本名を表に出すのは、なにかと憚られる空気が長くあった。
やっと本名を、堂々といえる時代になったのだ。ひそかに、胸が熱くなった。
授業で会うようになって、「美静ってなんてすてきな名なんだろう」と何度もいった。
ところで近年、隣国への敵愾心を露わにする言動が出てきた。今になって歴史を逆戻りさせようというのだろうか。
(2014年12月11日)