【往還集131】35 『美砂ちゃんの遺歌集』・続

歌集には、一篇だけ短文が挿入されている。故尾崎美砂は土器接合の仕事をしていたことがある。その経験を生かした作歌覚書だ。
歌細胞が目覚めるのは締切間近のみ、日常に隠れている非日常を捜し出し、熟語を検索して組み合わせるのだという。

「この作業は、土器を接合してゆく過程に似ている。まず、一番小さな言葉の破片を別の小さな破片と繫ぎ合わせ、中くらいの破片にし、更に他の破片をさがし、もうないとわかると、完全な形にするために、形容詞や副詞、の石膏を入れる。」

この特異な方法は、どんな歌を生み出しただろうか。

「着陸を待つ旅客機が街の灯をかすかに受けて旋回しをり」
「定刻に動く電車に乗り込みてわれは時刻表の支配下に入る」
「暑き日の歩道橋上歩み来てわが思惟の分岐しゆく瞬間」
心情・情緒にもたれかからず、湿度を排した思惟的な歌。この特異性。いまからの展開こそが楽しみな歌人だった。
(2014年12月7日)