【往還集131】31 特攻

高倉健追悼のテレビ映画「ホタル」を観た。特攻隊のドラマだ。韓国出身の青年も出てくるから、事は複雑。
が、今は映画でなく、特攻に関わる話をしたい。
自分が教師になったとき、先輩教師には実際に召集された人、戦禍に巻き込まれた人は何人もいた。
なかに特攻を志願し、飛び立つ寸前に敗戦を迎えたという人もいた。
その幸運を喜ぶべきところ、彼は「だまされた」ことに人間不信に陥り、特攻くずれを自称していた。
同僚ともうまく交わろうとせず、したがって職場での評判はすこぶる悪い。
「もう、誰にもだまされないぞ」と、自分の殻に閉じこもるだけ。
私は後輩として、通り一遍の礼儀は尽くしていたが、彼の内面にまで入り込むことはできなかった。
ただ、戦争とはかくまでも人の心を歪めてしまうものなのだと、思いやるばかりだった。 
彼の訃報は、数年前に新聞で知り、ひそかに冥福を祈った。
(2014年11月29日)