【往還集131】15 貸し借り

服部真里子は1987年横浜生まれ。早稲田短歌会、同人誌「町」を経て「未来」に所属。
その第1歌集『行(い)け広野(ひろの)へと』(本阿弥書店)を一気に読んで、清新な感性に魅了された。

「終電ののちのホームに見上げれば月はスケートリンクの匂い」

「白杖の音はわたしを遠ざかり雪降る街を眠らせにゆく」

など、一篇のメルヘンを紐解いていくよう。
ただ

「改札からまっすぐ海の見える駅なにを貸
したか憶えていない」

には、淡い違和感を覚えた。
この文脈からすると〈いつの日にか海ににかを貸した〉ととれる。
自分には、海から借りこそすれ、貸したという発想はない。
なにを借りたかをつきつめれば、人間であり、動物であり、生物であったその一番はじめの生命へと行き着く。
村上昭夫が

「お母さん/海の音を聞かして下さい」(「お母さん」『動物哀歌』)

とうたった、2億年まえ三葉虫となって生まれたあの奇蹟の日へと。
(2014年10月20日)