【往還集131】8 ソメイヨシノ

クリの木のついでに、ソメイヨシノについても。
この団地を造成するとき、社長は壮大かつ浮世離れした夢を描いた。どの区画も石組みの垣根にし、さらにソメイヨシノを2本ずつ植えた。
おかげで10年たつ頃、全体に花は満ち、桃源郷になった。
だが樹木が大きくなるとどうなるかまで、勘定に入れなかったようだ。枝は年々成長し、境界線を越える。水分をどんどん吸うから、他の草花も育ちにくい。
これはダメだと、とうとう1本を伐った。残りの1本、たまたま土が合ったとみえて、町内随一の大木になりはじめた。花は美しい。けれどこの1本のために他の草木がやられていく。
やむなし、あと1~2回花を見終わったら伐ることにしよう。
団地の会社は数年まえに他に替わり、造成も新たに手直し。まずソメイヨシノが、ことごとく根こそぎになった。
花に替わって新築の家々には、太陽パネルがきらきらと輝いている。
(2014年10月1日)