たかがクリの木、されどクリの木について語りたい。
現在の土地に移り住んだのは、20年まえ。造成未了の所が多く、我が家の周辺は空間だらけ。
あまりに殺風景なので、道の脇にクリの苗木を植えた。
それが年々大きくなり、収穫の季節を迎えると、子どもたちがやってくる。イガを割って、クリクリの実をてのひらに分けてやるのが自分の楽しみになった。
いつしか周辺は宅地もふえ、幼い子たちも歩くようになった。幼子たちはイガに興味をもつ。さわろうとする。あぶない。
木はさらに伸び、ついに電線にかかるようになってしまった。
ここが限度か。
とうとう伐採を決意する。枝をどんどん切り落とし、最後は根元の部分。
そのとき、横断面の瑞々しさにはじめて気がついた。20年の軌跡が、白地に褐色の輪となって描かれている。
「ぼくはもっともっと大きくなりたかったのに」
という声が、確かに聞こえてきた。
(2014年10月1日)