【往還集131】2 臓器提供

健康保険証の裏側には「臓器提供に関する意思を表示することができます。記入する場合は、1から3までのいずれかの番号を○で囲んでください。」とある。
脳死になったとき臓器を提供するか、心肺停止後にするか、どれもだめとするか。
生き返る見込みが薄いなら、少しでも新鮮なうちにどうぞ役立ててくださいというのが、私の考えだった。
しかしこれには、ほとんど本能的な拒否反応がある。
春日いづみ『八月の耳』(ながらみ書房)の「棗の実」の章。半年ぶりに息子に会って食事、息子が支払う場面がある。

「支払へる息子の財布よりふとのぞくドナーカードは見なかつたことに」

一首おいて

「死後硬直まだなき身より採りいだす臓器の温み思へば震ふ」

が出てくる。この感受性こそがふつうだ。
だのに臓器移植法はふつうを超える。ここにどんな文明的圧力が働いたかと、1首をまえに考え込みはじめた。結論はまだない。
(2014年9月11日)