【往還集130】35 左千夫「勾玉日記」

どうも、伊藤左千夫は人気がない。『野菊の墓』は知られるが、短歌になると牛飼いの歌以外、すぐに出てこない。感覚が旧いのに頑固に居座るので、茂吉と赤彦とも対立した。 
それはそうなのだが、全体像ぐらいはざっと見ておかなければと、『左千夫全集』第一巻を開いている。歌集は1冊ものこさないので、発表分を年代順に収録した巻。
やはりおもしろくない。
ところが「勾玉日記」にきたら、肩の力を抜いた詠風がなかなかいい。とりわけ幼子をめごめごする親ばかぶりが。

「しほれたるげん(げ)華手に持つ幼児を膝にかきのせ頬すゝりすも」

「花見にしゆかばと契る色あやのゴムの小鞠を買ふと契りぬ」

「神の手を未た離れぬ幼児はうべも尊とく世に染まずけり」

「神の恵み深く尊とく授かりし子故に親はいのちのぶらく」

「明治四十年」の章にある。明治らしい表現の旧さは否めないが、幼子の可愛がりようは今も昔も変りない。
(2014年8月18日)