【往還集130】34 毒

青臭さのことを思いめぐらしていたとき、蒔田さくら子の新歌集『標(しめ)のゆりの樹』(砂子屋書房)に

「毀誉褒貶の埒外にもう出でたりと覚悟の自在か歌に毒あり」

を見つけた。
青臭さと毒にはちがいがある。けれど似ているところもある。もう十分に齢だから、これまでとらわれてきたしがらみは放棄して、本音を語ろうではないかーー。この歌につづいて

「煩悩を詠ひて終に煩悩を脱けしか遺せることば飾らず」

があるから、きっと具体的なモデルが存在する。だれなんだろうと、あれこれ詮索したくなるのは、歌をやる人間の悪いくせだ。
毀誉褒貶など糞くらえと毒をまき散らす若者、もう埒外へ出たんだから遠慮することはないと毒を吐く老年、どちらも同じように青臭い。
両者にちがいがあるとしたら、若い日の「糞くらえ」は、以後に禍根をのこす場合があること。そのリスクの分、若い青臭さにはきらめきもある。
(2014年8月12日)