岩瀬成子(いわせじょうこ)の作品は、初期からほとんど読んできた。大人の目線の介在しない、子ども、または思春期の心の在りようが、いつでも現在的に描かれる。
『くもりときどき晴レル』(理論社)は6つの短篇からなる。
なかでも「背中」が自分のお気に入りだ。主人公は、ぼく。父と兄の3人家族。母は5歳のとき交通事故で亡くなった。母の妹のみどり叔母さんが時々食べ物を持ってきてくれる。その叔母さんと父が結婚する方向へゆこうとするときの、ぼくの心の動きを、大振りにでなく、等身大に描かれていく。
「ぼくは父をちらっと見た。父はちょっと赤くなっていた。ぼくはどきっとした。こんな感じの父を見るのは初めてだったから。」
大きなドラマがはじまろうとしているのに、なにもかもがふだんどおり。ふだんどおりなのに、大きなドラマでもある。
読んでいるうちに、こちらが涙ぐましくなってくる。
なぜなんだろう。
(2014年8月6日)