【往還集130】1 八重桜

広瀬高校まえの、いっぱいの八重桜。

ソメイヨシノが終わると、花見のどんちゃん騒ぎも幕を閉じる。
けれど喧騒の去ったあと、あでやかに、またひそやかに地上を潤す桜がある。八重桜と山桜だ。
その八重桜、そろそろ見頃ではと思って立ち寄ったら、見事な満開ぶりだった。場所は、広瀬高校の校舎まえ。自分が最後に6年間勤務した高校だ。濃いピンク色が一枝一枝、泡となってふくらみ、まるで祭の花笠飾りだ。だのに、人出はない。たまに通りがかりの人が立ち止まり、「ああ、きれい」とつぶやいて、それで終わり。
この桜を開校以来守り、育てて来たのは技師の和泉さんだった。季節になると、何日もかけて剪定に取り組む。そのこつを自分も教えられ、放課後には手伝わせてもらった。
やがて彼も定年退職。以後も年々花は咲くが、育てた人のことは誰も語らなくなった。人の名は消えても花は残るというわけ。
今、静かな満開どきだ。
(2014年4月28日)