【往還集129】36 虚実の春

「高みよりある日一気に蹴落とさるかかる虚実のあ生るる春先」

これは自作の歌。
今日、小保方晴子さんは会見場に、憔悴しながらも現れた。自分はテレビのまえに釘付けになった。
こちらは科学音痴ながら、ある日突然若く美しい科学者が世界的な発見をしたという報に驚き、いよいよ女性の時代がはじまったと胸を躍らせた。
当然のごとくマスコミも飛びつき、科学以外の〈物語〉を増殖させていく。
が、時がたつにつれて問題点が浮上。〈物語〉造りに手を染めたはずのマスコミは、掌を返したように小保方、理研批判をはじめる。あげくのはてに世界の科学者は嘲笑しているとまで書き立てる。
もし〈発見者〉が冴えない中年男だったなら、これほどの騒ぎにはならなかった。実質よりも〈物語〉を先行させる戦略がこういう事態を招いたといえる。
一時とはいえそれに共振した自分も、〈共犯者〉の一人であることは免れない。
(2014年4月9日)