【往還集129】33 高木仁三郎

この人なら、どのように考え、どのように表現しただろうか。
東日本大震災ののち、「この人」についてよく考えた。
そのひとりは井上ひさし氏。
もうひとりは高木仁三郎氏。
どちらも3・11を知らぬままに死去した。特に高木氏は原子力の専門家。実際に福島の事故を目の当りにしたならーー。
彼は早くから原発の危険性を訴えてきた。その語り口は決して激烈ではない。むしろ穏やかだ。けれど核心へと迫る切っ先は鋭かった。『原子力神話からの解放』(講談社文庫)には

「このシステムに破綻が生じたときには、内部に蓄えられた膨大で有害な放射能が大量に環境に放出される可能性を、どうしても否定できません。」

と書いている。この本の初版は2000年、すなわち事故の11年まえ。想定した事態が、図らずも現実の事となってしまった。天国からでもいい、思いのたけを伝えてほしいと、かなわぬ願いを抱いてきた。
(2014年4月6日)