【往還集129】19 沙羅みなみ『日時計』(青磁社)

それは、不思議な世界だった。はじめて知る歌人の、はじめての歌集。最初、前後左右をぱらぱらと読んでいたが、ふつうとちがうなにかがあると感触して、最初からていねいに読んでいった。たとえば、

「そうであることとそうでないことの間(あわい)はつねに淡く隔たる」
「刃のごとき月は懸かれり何人(なんびと)も触れてはならぬ白の木の上」

こんな感じ。さらに、

「垂直におちる言葉をつかまえてみたけれど飼うすべを知らない」
「これ以上どこへも行けぬ場所だろう絶望は常とても静かだ」

という感じ。
いきなりのシュール。いや、リアルとかシュールとかの区別のない、実存そのものがうたわれているーーとみてはどうだろうか。
かつて白秋は、写生をきわめて象徴へ到達する道筋を「多磨綱領」に唱えた。けれど『日時計』の世界は、写生即ち象徴、別にいえばリアル即ちシュールなのだ。そういう水位に達している歌集だと私には思われた。
(2014年3月6日)