【往還集129】6 『支那事変歌集 銃後篇』

『戦地篇』につづいて読んだ『銃後篇』。これまでも部分的には目を通している。〈公〉にからめとられた非個性の数々にはうんざりしてきた。
全部をまともに読んで、うんざりは何乗にもなった。『戦地篇』が1938年刊に対しこちらは、1941年刊。この間大日本歌人協会の体質も変った。収録歌の制作期間は同じでも選択の目に落差が出た。専門歌人たちの歌も多くあるが、ほとんどがひどい。
そういうなかで、よくパスしたなあと感心するのがほんのときどき紛れ込む。

「戦争に征かざるわれの昂りてものいふことは慎まむとす」(川田順)
「あの人も この人も 一枚の紙 ひら  ひらと 日の丸の嵐を巻いて すぎ去つた」(橋本華子)
「昂奮に赤らめるおもわ皆若し出征兵士皆生きて帰れよ」(山川柳子)

死ぬことが名誉とされた時代、「皆生きて帰れよ」と直言するのは驚き。これが親たちの本心。なぜ混じり込んだのかは謎。
(2014年1月11日)