朝読書としてトルストイ『戦争と平和』を読んでいることは、以前にも書いたことがある。
その最終の6巻を、12月31日に読み終わった。ロシアを舞台にした上流階級の生活と衰退、ナポレオンの進攻と敗北、そのなかにおける人間の生と死など、まさにまさに大河小説の名に恥じない名作。
ところがである、全6巻を読み終わった私の脳裏に浮かんできたのは、富澤赤黄男
「戞々とゆき戞々と征くばかり」
だった。『天の狼』の一句。「戞」は「かつ」と読み、武器や金属、石などが固いものにぶつかる音。赤黄男は一兵として大陸に渡り、その体験をもとに作った。表立った反戦句ではない。けれど、凄惨な場を生き尽くしたのちの、人間の原点ともいうべきものが凝縮されている。
わずか「575」と全6巻が対等だとはなにごと!と、トルストイさんは怒るだろうか。いや、案外、国境を越えて納得してくれるのではないか。
(2014年1月2日)