きのう深夜に参院本会議で採決された特別秘密法については、語りたいことが山のようにあるが、ひとつの挿話のみ記し留めておきたい。
父親には兄がいた。私にとっては叔父にあたる。岩手の農家の長男だ。当時長男の徴兵は極力抑えられてきたが、ついに赤紙が。満州へと渡る。
敗戦直後に帰還し、農家の後継ぎに復帰する。
が、ただの歓びの復帰ではなかった。満州を去るに際し、厳重な箝口令がしかれた。洩らしたりしたら逮捕され、家族もろとも罰せられるというのだ。
そうはいっても家族・親族に沈黙してはいられない。こそっと洩らす。
以来、誰もが「その事」には触れず、表面ではさりげなく暮らしはじめる。どこかに重ったるい空気は澱んだまま。
そのうち自分も大人になる。叔父も老いはじめた。「その事」の詳細を知るチャンスを逃してはなるまい。
ある年の暮れに帰省、酒を酌み交わしながらたっぷり聞いた。
(2013年12月7日)