【往還集128】27 名を残さず

晋樹隆彦(しんじゅたかひこ)は「心の花」の歌人、本業は及川隆彦名の編集者。1944年生まれで、自分とは同世代。「短歌往来」を長年出しつづけているが、そのまえは「短歌現代」の編集長。さらにそのまえは「エロイカ」の編集長も勤めた。
河野愛子が生前仙台に来て「及川隆彦って「エロイカ」をやっていた優秀な編集者よ、「短歌現代」をやるなんてほんとはもったいない人なのよ」といった。「短歌現代」は保守的な色合いの歌誌だった。けれど自分は彼が編集長になってから購読しはじめ、退社するまでの全てを今でも保存している。
その彼の近刊歌集『侵蝕』(本阿弥書店)に

「多く名を残さず逝きしエディターを思うときあり仕事の帰り」

がある。編集者を長年やり、表裏全てを知る人ならではの感慨だ。
他人の名をあげてやることはあっても、裏方でしかない存在。そこに喜びを見出すのが編集者だという哀感もこの歌にはある。
(2013年10月23日)