編み物の専門誌に「毛糸だま」(日本ヴォーグ社)がある。その2013・秋増大号にいいことばを見つけた。
野沢弥市朗「世界手芸紀行 アイルランド」は、アラン模様の発祥地アラン諸島を訪ねる。80歳のモーリス・ニ・ドゥンネルさんにインタビューする。手先は目にも留まらぬ速さで、指さきが別の生き物のように勝手に動いている印象だという。ドゥンネルさんのことばがいい、
「このセーターは私が編んでいるのではありません。神が私に編ませてくれた、神様からの贈り物なのです」
自分も幼いころから、母親が編み物をするかたわらにいた。母は、編み棒に毛糸を引っ掻けては巧みに編み込む。ラジオを聞きながら、おしゃべりをしながら、ときには外へと目をやりながら、棒は一時も止まらない。あれは人間を超えた、神の技だった。
一昔まえ、こういう〈名人〉は素人のなかにいくらでもいた、どういう分野でも。
(2013年10月19日)