玉井清弘は1940年生まれの歌人。生れは愛媛県だが、教員として香川県に定住。彼は最初期から時流に乗らない作風を保ってきた。
その近刊歌集『屋嶋』(角川書店)に、
「ほんとうの我などついになきことにようよう気づく齢となりぬ」
を見つけたとき、その通りだなあと頷いた。高校野球でもよく「○○高校らしさを発揮したい」とか「◇◇チームらしさが十分出なかった」などという。解説者まで「高校球児らしい試合でしたねえ」と、いかにも「らしさ」があるかのように語る。
けれどこの若さで固定した「らしさ」があるわけがない。外部が勝手に決めたイメージにすぎない。
これは大人になっても同じこと。「ほんとうの我」とか「本来の自分」はあるようでない。いつになっても「我」はぐにゃぐにゃしているばかりだ。外部から「あなたらしい」などと評されると、余計なお世話といいたくなるではないか。
(2013年10月18日)