【往還集128】20 絶望

教師を定年退職してから10年になる。退職にあたっての安堵感を今でもよく覚えている。
担任した生徒を一人も死なせずにすんだ!この深い安堵感。事故や自殺で生徒を失い、悲嘆にくれる同僚を何人も見てきただけになおさら。
私は3・11のさなかに生じた無数の絶望を思って、何度も胸を締め付けられてきた。親も先生も手をさしのべてくれない絶望にまみれ、波に呑まれていった子どもたち。一人の生徒も救えないままもろとも消えていくほかない、教師としての究極の絶望感。
その後破壊しつくされ、泥濘のしみついている校廊を歩みながら、壁に残る写真を見た。いっぱいの子どもたち、背後に諸手をあげている若い教師たち。全てを一瞬にして覆す自然の悪意、そして生徒にも自分にも無力でしかない絶望感。
それに応えうることばは、まだない。軽々しいものいいをしてはならないと、思いつづけてきた。
(2013年10月13日)