【往還集127】47 農村の原風景

哀草果の『山麓時代』は、第一歌集『山麓』に洩れている歌を編んだ歌集。「後記」に「全身の力で取組んだ時代のもの」と書いている。 
哀草果の業績は、東北農村の原風景を詠い留めたことだと改めて思った。

「藁塚のなかに見つけし鼠の児眼あかぬゆゑに罪なかりけり」
「背戸川に夜ふけ米搗く水車音をやめたり凍りけらしも」
「秋の日を働き飽かぬ人びとは月のあかりになほも稲扱く」

大正3年から昭和2年までが制作期間だ。この時代、干ばつ、冷害に何度も襲われて東北の農村はかなり貧しかった。朝から晩まで続く労働もきつかった。
そういうなかで哀草果は、山形の一農民として日々を送り、身体で感受する事々を歌にした。
それらが原風景として感じられてくるのは、かなりの時間がたってからだ。
そのためとかく懐旧の情を先立てて語られがちだが、血や汗を捨ててしまっては、原風景の厚みが脱落してしまう。
(2013年9月13日)