【往還集127】41 ハリネズミとヤドリギ

秋月祐一『迷子のカピバラ』(風媒社)は本人の歌と写真からなる歌集。「最近では出色のセンスだ、感想を本人に直接伝えたいなあ」と思いながら、繁忙にまぎれてそのままになってしまい、いつしか半年。
この間、妙に心にかかって離れない一首が浮沈する。

「ラッシュアワーの電車を降りた少年にひよいと渡されたハリネズミ」

少年とは何者、なぜ行きずりの人間にハリネズミを渡したのか、そもそもハリネズミとはなにかーー。
もしかしたら少年は異界から来て、これから現実界へ入るのかもしれない。ハリネズミとはその通行券で、だれかに渡すことによって入場できる。受け取った方は逆に異界への通行券ともなる。
賢治「水仙月の四日」では雪童子が子どもにヤドリギをぷいと渡す。あれも現実界と異界の交信を可能にするふたりだけの印。
この寓話を重ね合わせると、ハリネズミの世界がいよいよふくらんでくる。
(2013年9月7日)