【往還集127】38 笹井宏之の方言歌

方言歌の元祖は誰だろうか。

いしょけめに
ちゃがちゃがうまこはせでげば
夜明げの為が
泣くだぁぃよな気もす

をはじめとする方言歌が賢治には何首もある。だから彼が元祖という説もあるが、真相はわからない。
方言語には共通語とは別の味わいがある。それが短歌になるとなおさら印象付けられる。笹井宏之歌集『八月のフルート奏者』(書肆侃侃房)に方言歌を見つけたときはうれしかった。

「夢に出てきんさるとは珍しか三回忌やったねタケ子ばあちゃん」
「冬ばつてん「浜辺の歌」ば吹くけんね ばあちやんいつもうたひよつたろ」

笹井は1982年佐賀県生まれ、2009年に若くして永眠する。小さい頃からおばあちゃんには、とりわけめごめごされて育ったのだろう。だからおばあちゃんに語りかける歌は、ごくごく自然に方言になる。そこに人と人との温もりも生じる。
方言には身体性があるということだ。
(2013年9月4日)