20代の半ばにデビュー作『新美南吉童話論』を出した。「路上」に「新美南吉論」として1968年から連載したのを、巽聖歌が出版へとつなげてくれた。さらに日本児童文学者協会新人賞も得ることができた。
その選考委員のひとり、「でんでんむしの かなしみ」のようなとるにたりぬ童話を発端としているのが、本書の傷だと書いている。評論の何たるかも知らない委員がいることに、内心がっかり。わずか3枚の幼年童話との出会いが、自分を新美南吉論へ駆り立てた、それは訂正しようがない。南吉といえば「ごんぎつね」「てぶくろを買いに」だから、ほとんど顧みられてこなかったのは確かだ。
1998年に美智子皇后は「子供の本を通しての平和」の基調講演をビデオで行い、「でんでんむし」を取りあげた。以来、広く知られるようになった。
あのときの選考委員、やはり「とるにたりない」というだろうか。
(2013年7月30日)