宮柊二の軍事郵便には、火野葦平への違和が記されている。そのことが気になって火野を読むうちに、同時代に石川達三『生きている兵隊』のあることがわかった。これは発売禁止だから宮は読んでいない。
その他、関心を覚える戦中の文物が続出す。これではしばらくは宮柊二へ戻れない。
石川は、日本兵による中国民衆虐待から目をそらさない。
目下日本の一部論調は、慰安婦の強制はなかったと唱えているが、そんな正当化はとても成立しない。
特に酷いのは母親と嬰児の場面。若い女房に抱かれている嬰児。女房は生きていたのに間もなく死体で見つかり、強姦致死であることをほのめかす。嬰児はなお泣いている。
「あの児も殺してやれよ。昨日みたいにな。その方が慈悲だぜ。あのままで置けば今晩あたり生きたままで犬に食われるんだ」。
これが日本兵のことばだ。『生きている兵隊』は戦後になってやっと刊行された。
(2013年6月17日)