石井光太『遺体』(新潮社)は映画「遺体」の原作だ。私はこの本を早くに買っていた。震災関係の本は何冊も手元においてあるが、なかなか読む気になれない。
その理由の第1はフラッシュバックが起きて胸苦しくなるから。
第2は渦中に入り込んで取材したと称して、安易な同情や的外れの批判を繰り広げるのに辟易するから。
いったい、取材という行為はどういうことかと何度も思う。
私自身は、家の倒壊は免れ、放射能で逃げ回ることもなかった。
しかしすぐ近くの団地では、何十軒も土地ごと壊滅状態になった。そこを〈見物〉することは、とてもできない。犠牲者の慰霊碑に手を合わせるだけで、死者を傷つけている気がしてくる。
だのにマスコミ人やライターたちはズカズカと渦中へ入り込む。自分が安全圏の人間であることと、どのように折り合いをつけるのだろうか。
勿論、これで一旗揚げようとする人は論外として。
(2013年6月13日)