「優れ妻持てる男のほろ苦さ」
ふっと、こんな句が浮かんできた。ちょっと川柳っぽい。俳句なら
「優れ妻持つ男としハナアヤメ」
か。ちょうどアヤメ満開の季節ゆえ。
なぜ浮かんできたかといえば「かりん」6月号の後記に、岩田正の直言を読み、「いいこというなあ」と感心したからだ。それについては後で紹介するが、第6歌集『視野よぎる』の印象がこれをきっかけに甦ってきたのだ。
岩田の妻は馬場あき子。歌人としての人気度は争われない。
「ドア閉ざす音と外にひびくゆくあてのあればかわれは今朝ものこさる」
人気者の妻は今日もお呼びがかかっている。どこからも呼ばれない自分はぽつんといるほかない。優れ妻を持つ男の孤独と哀感。
けれどいじけているわけではない。歌集を重ねるにつれて、哀感から愛感へと移行していく。
「妻の寝息ふかきをきけば日常も歌も思ひもわれよりふかき」
これなど胸に沁みてくるではないか。
(2013年6月7日)