【往還集127】2 石巻へ

破壊された女神像。向こうに見える丸い建物が、石ノ森萬画館。
波と炎に破壊しつくされた門脇小学校。
門脇小学校の一階教室は、3・11の日のまま。

強風の日。東部道路を走りながら何度も横風に煽られた。
4000人近い犠牲者を出した石巻。瓦礫の山はほとんど姿を消したが、その跡は無機質の更地になったまま。
旧北上川の中州にある中瀬公園も壊滅状態。やっと石ノ森萬画館は復活した。が、公園南方に立つ自由の女神像は、腹部を深く抉られている。
波と火炎に包まれたかどのわき門脇小学校校舎は、窓という窓、壁という壁が激しく崩落した。
日和山へ登り、草に散るヤマザクラの風情と、咲きはじめたツツジの色にやっと慰められる。
忘れられていく、何もかもが置いてけぼりのまま、世はどんどん先へ進んでいく。
そして見えないところに、個別化された、貧しい実存が、小さく刻まれる。
一瞬にして生じた膨大な地獄、その非現実が現実とひとつの媒介もなしに合致してしまったあの日。あれは、どういうことだったのか、私はいまになっても、うまく筋道を描けない。
(2013年5月8日)