【往還集126】32 佐藤羽美『ここは夏月夏曜日』

佐藤羽美(うみ)の歌集は、フシギ歌の満艦飾だ。

「べえろんと夜風に腕を舐められる夏の終わりの葬儀であった」

「うっとりと頷き合って教室のカーテン裏に獏をかくまう」

これらはまだいい。

「風薫るコーラを飲んで制服を取り換えあって性交をする」

になると、最初は???、次にフムフム、そして最後には感慨まで覚えてしまう。
なぜか。
性を持ちながら性の枠に自分を押し込めず、それでいてなお性であるという、いわくいいがたい感覚が、ここにはある。
登場するのは、たぶん高校生のラブラブ同士だ。男の制服、女の制服はフェテシズムの象徴としてある。だから取り替え合うと一層性欲が高まる。社会的通念上は、一種の変態ごっこということになる。ところが「取り替えあって」は男の性欲を優先しているわけではない。両性同等だから、変態の感じがない。第一「風薫るコーラ」からして、カラッとしているではないか。
(2013年4月23日)