【往還集126】9 この小さなノートを

宮柊二『山西省』論を進めるに当って、大戦に関する記録をできるだけ読んでおきたい。渡辺一夫『敗戦日記』もその一冊。
すっかり、感銘してしまった。あの渦中に、このような日本人もいた!渡辺は1901年生まれで、兵役年齢から、はずれている。しかし東大に勤めながら、教え子を次々に戦場へ送り、自らも辛酸をなめる。時には絶望し、自殺の誘惑さえ覚える。

「もし竹槍を取ることを強要されたら、行けという所にどこにでも行く。しかし決してアメリカ人は殺さぬ。進んで捕虜になろう。」

このように断言する。もちろん、ノートが没収されたら獄中につながれる。その危険をおかしながらも記し続ける。

「この小さなノートを残さねばならない。(略)この国と人間を愛し、この国のありかたを恥じる一人の若い男が、この危機にあってどんな気持で生きたかが、これを読めばわかるからだ。」

敗戦の年、6月6日の記述だ。
(2013年1月7日)