【往還集126】7 夕映え

日が沈んだときから、夕映えは広がる。

現在地に引っ越すまえは、市街地のど真ん中に住んでいた。施設も交通もなにもかも便利。
が、地方育ちの自分には、なにかが物足りない。ひとつは小川の音がしないこと。もうひとつは夕映えを存分にみられないこと。どうせ引っ越すなら、ふたつが叶えられるところと探して、ここに来た。
周辺は森、そして森。彼方には蔵王の峰が連なる。念願の夕映えも、四季にわたって眺められるようになった。
一日の陽がしだいに傾き、山に没しようとして、溶鉱炉の鉄のように煮えたぎる。やがて、トポンと姿を隠してしまう。
それからだ、夕映えの広がるのは。透度のある金色が西方一帯に流れる。雲も、山々の白い肌も、うすくれないに染める。この世のものとも思えぬ、神々しく、やさしい夕映え。それを目のまえにしてすばらしい歌を次々と作るつもりだった。
以来17年、納得できる作がひとつもできないとはどうしたことか。
(2013年1月5日)