【往還集125】28 匂いと臭い

自分が子どものころは、農家の人が肥桶を車に積んで家々の糞尿を集めにきた。金肥が普及するまで、それは続いた。
5年生まで在籍していた前沢小学校には、畑の実習日があった。校舎の裏は長い坂道。登り切ると一面の台地が広がる。うわのはら上野原という。学校耕地はそのなかにある。
実習日には、2人1組になって、かつぎ棒で肥桶を運ぶ。これは4年生以上の仕事。教室から解放されて、遠足気分だ。あまりにふざけすぎて、駕籠担ぎのように走りだし、坂道で肥桶をころがすのもいる。桶の中身は下へと流れてしまうからまたまた大騒ぎ。
台地一帯は、広々とした菜の花畑だ。花の色は混じりけのない黄色で、目の覚めんばかりの明るさ、無数のヒバリも鳴きしきる。菜の花のにおいは、どことなく糞尿に似ている。そのなかをタプンタプンさせて担いでいく。 花と肥桶の匂いと臭い。
いまでも一面の菜の花を見ると嗅覚が甦る。
(2012年12月9日)