『佐佐木信綱歌集』を朝々に読んでいる。信綱は自分の生活(たとえば仕事や家族)の具体をあまり表に出さない。そのためどうしてもとらえどころのない感じがしてしまうが、時々顔を出す子どもの歌は実に生き生きしている。
『豊旗雲』から。
「夜舟こぐ父にそひゐしむつ六歳の児はころりと臥して早寝入りたり」
「をさなきは松山道をめづらしみ拾ひし松かさを手より離たず」
『鶯』から。
「手をとればふたあし二足三足よちよちと歩みそめたり真赤なる靴」
『椎の木』から。
「交番の上にさしおほふ桜さけり子供らは遊ぶおまはりさんと」
『山と水と』から。
「いきいきと目をかがやかし幸綱が高らかに歌ふチューリップのうた」
こういう具合。特に孫をうたうときの純朴このうえない喜びようは、どうだろう。名士として第一線に立ち、それなりの苦悩も避けがたかった信綱にとって、子どもの世界は、すぐ身近にあるこのうえない解放空間だった。
(2012年12月1日)