
年に一回は川渡(かわたび)温泉へ。川渡の隣りは鳴子温泉、その奥深くに潟沼はある。強酸性の火山湖のため魚はいない。ユスリカが無数に浮遊するが、人畜には無害。湖面は目も覚めるような翡翠色。まるで天の恵みのよう。今日は重い曇天だが、それでも色は神秘的で、風もないのに波は静かに呼吸している。
古川女子高に勤めていたとき、近くに「白梅山荘」があった。温泉付きの贅沢な合宿所。引率のたびにここに来て散策し、ボートに乗って遊んだ。
そのときの生徒たちはもう立派な大人になり、ほとんどが視界から消えた。
そして自分は初老である。誰にも、誰にも時間は万遍なく降り注いだというわけだ。
だのに湖の不変はどうしたことだ。あの日と同じ翡翠色、周辺を包む光や風や静寂。
おまえさんは、いつになっても、おまえさんのままなのだねえと語りかけたくなる。語りかけたくて、今年もここに来てしまった。
(2012年10月11日)