【往還集124】46 空穂晩年・続

「オリンピック」は17首の連作。1940年10月10日に開会。敗戦国日本の甦りを世界にアピールしようという気概もある。

「天に照る日のひかり採りし聖火いまオリンピアより東京に来ぬ」

空穂はまず聖火をうたって胸を高鳴らせる。

「腹痛を押して走れるつぶら圓や谷のゴールに入るや力尽き果つ」

死力を尽くす圓谷と、ほとんど一心同体だ。この時点ではその後の悲劇をまだ知らない。

「アベベ走る群を抜きてはひとり走るリズムに乗りて静かに早く」

裸足で走破したアベベの風格を、冷静かつ的確に描きとる。

「東洋の魔女群駆け寄りいだ抱き合ひ一団となりて泣き出しにける」

女子バレーの優勝した瞬間。空穂はいうまでもなく日本びいきであり、勝てば感涙し負ければ悔しがる。ただし外人も公平にうたう。

「勝ち残る外国選手の若き一人つつましく胸に十字を切りぬ」

緊張の聖なる瞬間をとらえるのは、さすがに歌人の目だ。

(2012年8月20日)